その日私は初めてナンパされた。

雨天の想い


 私はその日、駅前のデパートまで買い物に来ていた。

 はやての誕生日プレゼントを買うために。

 デパートの寸前で若い三人組の男の人に声をかけられた。

 「ねーキミ、俺達と遊ばない?」

 「遊ぼうゼ」  

 「お茶でもどうですか?」  

 三人ともいかにも不良ですというような格好でした。

 「いえ、予定がありますので」

 そう言って横切ろうとしましたがまだひつこく言い寄ってきます。

 どうしよう、私ナンパなんてされたこと無いからどうすればいいか分かんないよ〜

 「お、フェイト」

 後ろから馴染みのある声が聞こえてきた。

 振り返ってみると黒いジーンズとミルク色のトレンチコートを着た亮が立っていた。

 「よぉ、どうしたんだ?」

 振り向いた私にポケットから手を出して挨拶してくる亮。

 うん、亮に助けてもらおう。

 「亮、なんで遅れたの?」

 「ぅん?? あ、すまん、母さんの頼まれ事してた」

 嘘をついて視線で助けを求める。

 亮もそれに気が付いて話を合わしてくれる。

 「じゃあ、そういう事なんで」

 「あ……」

 亮は私の手を取ってデパートへと歩みを進める。

 私は亮に引っ張られるように歩いていく。

 ナンパさん達もあまりの展開の早さについて行けずに唖然としているうちに見えなくなった。

 「あぁ」

 亮が繋いでいた手を離して私の方に振り向く。

 「大丈夫かフェイト? 何もされてないか?」

 「大丈夫だよ。 何もされてないよ。ごめんね? いきなり巻き込んで……」

 「ん? ああ、別にいい、友達が困ってるなら助けてやるのが友達だ。気にするな」

 亮はそう言って私に微笑んでくれた。

 私は亮と友達になれてよかった。

 これもはやてのお陰だね。

 私は脳裏に太陽の様な彼女を思い浮かべる。

 「で、フェイトは何してるんだ?」

 亮の声でハッとする。

 物思いに耽っていたみたい。

 「はやての誕生日プレゼントを買いにデパートに行こうとしてたんだよ」

 「ああ、はやてのな……」

 ん?どうしたんだろ?あれ、亮ってはやての誕生日知ってたっけ?

 「ねぇ亮ははやての誕生日知ってたっけ?」

 「ああ、大体はなー

 シグナムから聞いたが忘れてた。

 あげる物は決まってるんだが材料買わないとなー」

 亮は乾いた笑い声をあげながら考えている。

 「それってデパートで買える物?」

 「あー買えん事もないかな。 フェイトはデパートに行くのか?」

 「うん、そうだよ。亮も一緒に行こう!」

 私は亮の腕に自分の腕を絡み付けて胸の前持ってくる。=抱きしめている状態。

 この前、アリシア姉さんに言われてから自分の気持ちに気付いた。

 亮の何気ない気遣いや絶対なる決意を持った瞳に心を引かれて行ったんだろう。

 アリシア姉さんが亮の事が好きと言った時の『亮を盗られたくない』という想いは偽物じゃないと信じてる。

 自分の存在がアリシアという人物の代わりだったとしても

 私は自分の考えている事を顔に出さずに明るく亮に話かける。

 「で、何買うの?」

 亮の顔をほんの少し仰ぎ見て――亮の身長が私よりも大体、頭一つ分ぐらい高いから――笑顔で聞く。

 「んぁ、ガラス製品なら何でもいいな。後はストラップチェーンだな……っと、あれは残りがあったか。    所でフェイト君は何時まで私めの腕を抱きしめているんでしょうか?」

 亮は思い出すように明後日の方向を見ながら考えていたけど、私の方へ顔を向けて苦笑しおどけた口調で言った。  

 亮ぽいなこう言う所。

 「まぁ、そうしていていらん考えをせんのなら構わないがな」

 亮の何気ないその言葉に私は驚きを隠せなかった。

 そんな私に亮は言う。

 「気付かれないと思ったか? 顔に出なくても雰囲気が変わったくらいわかる。 何を考えているかは知らないがいらん考えならするなよ」

 亮らしい言い方だけどさ彼の優しさが伝わってくる。

 確かに過去に囚われすぎなのかもしれない。

 私は呟くように囁く。

 「ありがとう」

 周りの雑音で消えてしまうその囁きは亮には聞こえたようで手をヒラヒラさせて答えてくれる。  

 私はその態度に満足して、名残惜しくも亮の腕を開放する。

 亮は何故か安堵の表情を浮かべていた。

 気にはなったが聞かないでおこうかな。

 「さて、早く行こっか」

 「そうだな」  

 私と亮は歩みを進めた。先ほどよりも速く。




 私と亮は二人してはやてのプレゼントをああやこうや言いながら売り場をウロウロしていました。

 「なかなか良さそうなプレゼントが見つからないね」

 「確かになー 俺の物は買ったがフェイトの方は見当たらないしな」

 色々と見て回ってみたけどコレだ!と言う物が無い。

 亮は琉球硝子工芸展っていうコーナーにあった夕焼けみたいなコップを二つと瑠璃色のコップを二つ買っていた。

 それをそのままあげるのか聞いた所、コレを材料にして何か作るらしい。

 そのままあげても喜ばれそうだ。

 キョロキョロと視線を巡らせて何かないか探していると文房具店の店先が目に止まる。

 なにか引き付けられるモノを感じて私はそちらに歩みを進めた。

 亮も私が何か見つけたのを感じたのか私の後に続いて店先を目指して歩む。

 店先には色々な商品が置いてある。

 だけど私は一つの物に目を奪われた。

 それは天井のライトの光があたり七色に輝いている蝶が入った栞でした。

 「七宝の栞か……いいんしゃないか?」

 「七宝?」

 私は聞きなれない単語に首をかしげて亮を見る。

 「七宝は七宝焼きと言って日本の伝統工芸だ。色の付いたガラスを型枠に入れて焼いた物だ。 ここまで綺麗に作られた七宝焼きは早々無いけどな」

 亮は思い出すように説明してくれます。

 「はやてへのプレゼントはそれで決まりかな?」

 亮の言葉に私は我に返りました。

 いけない、いけない、はやてのプレゼント探してたんだ。

 けど、私も欲しいな。

 今度買おうかな?

 「そうだね。これにしようかな。 そんなに高くないし」

 私は自分が欲しい気持ちを抑えてはやてへのプレゼントとして買う事にする。

 私が買うためにレジで順番を待っていると亮は商品を整理していた店員に声をかけて何やら話している。

 店員に連れられて亮がどっかに行った時に私の会計の番になったので   

 素早く会計を済ませるといつの間にか亮が何個かの小さなボトルをカゴに入れて後ろに立っていた。

 亮はそのままレジを済ませる。

 私と亮は文房具店を後にした。

 「ねぇ亮、さっきの文房具店で何買ってたの?」

 「んぁ、特殊な塗料かな」

 「そうなんだ」

 ふと、気になった事を聞いてみたのだ。

 頷いた私の頭に冷たい雫が落ちてきた。

 空を見上げると雨雲があり、小さな粒が降ってくる。

 「雨だ。 走るぞ」

 亮はそういって私の手を取って走り出す。

 引っ張られるように走る私は赤面して居るだろう。

 好きな人に手を握られているのだから。






あとがき
一発ネタにしたかったんですが……
色々とあり、話が繋がるように作ってます。
この後に誕生日編があり、その後にドレス騒動がありと続きます。